身をすててこそ浮かぶ瀬もあれ(2)
抜き取り
1991年、私は東大和警察署に会計係長として着任した。引継ぎで前任者から「幹部研修費一覧表」なる書類を渡された。
まず最初に、
「署長30,000、副署長20,000、課長10,000、警務課長代理と会計係長5,000」
などと記載がある。このことは、私自身が前任の北沢署でも会計係長として幹部研修費(ヤミ手当)をもらっていたから、さほど驚きもしなかったが、まさに目からウロコが落ちたのは次のページだった。
「原資・交通課20,000、警備課30,000、地域課20,000、刑事防犯課30,000」。
読者にはサッパリわからないだろうから、これらの記述に基づいて私がやったことを説明して、この意味をご理解いただこう。
各所属の会計責任者は、毎月はじめに警視庁本部に行き、正規予算としてさまざまな現金をもらって帰る。捜査費(国費)、捜査用報償費(都費)、運営費(署長の接待費)、褒賞費(署員の功労に対する署長表彰の費用)、外勤指導研修費(交番の警察官に対する指導研修費)などが、それぞれ各課宛の茶封筒に入っている。
さて、これらの現金を署に持って帰ると、私は「幹部研修費一覧表」に基づき、各課宛の捜査費、捜査用報償費の封筒から現金を抜き取る。交通課宛のものから20,000円、警備課宛のものから30,000円といったように。
合計100,000円の現金が裸で私の机に載る。
次に私は、あらかじめ「署長、副署長、警務代理」などと表書きして作っておいた別の茶封筒に、「幹部研修費一覧表」の指示どおり、署長に30,000円、副署長に20,000円というように、机の上の現金を入れていくのである。
これで100,000円は、きれいに移しかえられた。
幹部研修費は、前述のとおりヤミ手当だ。つまり、私は毎月捜査費等を幹部のヤミ手当に変える実行犯の役割を与えられたのであり、「幹部研修費一覧表」はそのためのマニュアルだったわけである。公金横領の手法の詳細を、このとき私は実体験として知った。
私の役目はそれにとどまらない。
前述の「褒賞費」や「外勤指導研修費」は使い切れないので、「カラ署長賞」「カラ外勤幹部会議食事代」等の書類を作って現金を浮かせ、副署長に渡していた。
そんなこんなで、私の仕事の半分は、インチキ書類や帳簿の作成だった。
当時の私は、公金横領の罪悪感というよりも、こんなことに時間と労力を割かれることへのおもしろくなさが強く、1年で転勤したときにはホッとしたものだが、その5年後、警備第1課への転勤で、署の裏ガネとは金額も手法もケタが違うものを知ってしまうのだ。
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