身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ(3)
カネのなる木
警視庁機動隊員3,000名には、各隊から毎日の警備場所(国会、大使館など)への移動に対し、旅費が支払われている。いわゆる「出張」扱いになるためだ。
月1億、年額なんと12億円だ!
この出張は、隊から警備場所まで隊のバスで移動し、寝るのも、そのバスの中という形であるため、隊員個人が交通費やホテル代を立て替えるわけでもない。だから隊員は、毎日の警備が旅費をもらえる出張であるという認識はない。
また当時(1997年)、この旅費は、機動隊を運用する「警備第1課」が3,000人分をまとめて代理請求・代理受領する仕組みだったので、個々の隊員が手続きにタッチすることもなかった。
このため各隊では、本人に旅費の存在すら知らせず、会計担当が、一括保管している隊員の印鑑を勝手に使用して旅費を請求し、代理で警備第1課が受領した旅費は、そのまま課の金庫に納められ、裏ガネとしていた。金庫番は庶務担当管理官だ。
繰り返すが、年12億円である。
このカネは、警備第1課幹部等のヤミ手当、せん別、部内の飲食、警察庁への上納などに湯水のごとく使われた。
この事実を私が知ったのは、1997年に私自身が警備第1課に転勤したからである。そして、この転勤には特殊な「理由」があった。
当時、大蔵省(現財務省)は、国費の債務の支払いを、「1998年度からは債権者の口座に直接振り込む」と発表していた。つまり、機動隊旅費も、隊員の口座に直接振り込まれるようになるということだ。
あわてた警備第1課は、その対策に専従するプロジェクトチームを発足させた。私もその一員として呼ばれたのである。
旅費が隊員の口座に直接入ることは、組織として2つの問題があった。
1つ目は、隊員に旅費の存在を知られることとなり、「今まではどうなっていたのか?」という疑問を持たれるおそれがあること。2つ目は、旅費を従来のように裏ガネとして使えなくなること。
チームの7人は、課内にも仕事内容を秘匿するという完全極秘態勢で、日夜対策を検討したが、妙案が出ないまま時は過ぎた。
そして、新制度開始の2カ月前になって、警察庁から仰天発表があった。
「制度は予定どおり開始する。ただし機動隊旅費だけは隊員の口座でなく、代理で一括受領する者の代表口座に振り込む」
代理受領が従来どおりなら、裏ガネとしての運用も今までどおりできる。
「新しい制度になったら上納もできなくなるぞ、と警察庁を脅かし続けた成果だな」
チームのキャップ、江口慎一郎警視(当時)は、こう満足気に漏らした。
それまで、警察署で月100,000円の裏ガネを作っていた私が、突然、月1億円という世界に足を踏み入れてしまった。
チームのある警部補はこんなことも言った。
「隊員は自分の懐を痛めているわけではないから、旅費を組織がいただいたって問題ない。隊員はカネのなる木さ」
私も最初は当惑したが、組織の極秘任務に携わっているという事実が、徐々にプライドをくすぐっていき、自分はエリートではないかとまで思うようになった。
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