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2005年9月20日 (火)

身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ(4)
周到な工作

 今、全国各地で「捜査費」のインチキが明らかになっている。「捜査協力者」が情報提供謝礼を警察から受け取った際に書いたとされる「領収書」は、実は警察で書いており、「捜査協力者」は実在しないという問題だ。

 現実に、「偽造領収書を書かされた」と、多くの警察官が証言している。

 しかし、直接会計業務に携わることが多い、私のような事務職員は、偽造領収書を書かされる機会はほとんどない。東京都や国の会計検査で、会計担当者の筆跡と捜査協力者の筆跡とが同一である書類を見せるわけにはいかないからだ。

 そんな私も、警備第1課のプロジェクトチームにいた頃は、直接の会計担当ではないということで、初めて「捜査費」の「偽造領収書」を書かされることとなった。

「自分もとうとうこの仕事に手を染めるのか」

 私は妙な使命感と満足感を覚えた。

 私が担当したのは、東京都練馬区在住の固定協力者(定期的に情報をくれる、いわゆるスパイ)である某(氏名は失念)名義の偽造領収書で、毎月1枚ずつ書くようになったが、最初の月だけは10枚ほど渡された。

「すいませんが、年度当初である4月に遡(さかのぼ)って書いてください。今までこれを書いてくれていた人が転勤しちゃって…。会計検査では1会計年度分を見られるので、同一人物の筆跡を、年度の途中で変えられないんです」

 捜査費担当の佐々木(下の名前は失念)警部補は、恐縮しながら私にそう説明した。

 このことは、警察署で私も各課に注意していた。しかし、これは逆に言えば、会計年度が違えば、同一人名義の偽造領収書を違う者が書いていても、検査ではバレないということなのである。要所をおさえておけば、検査はチョロいものなのだ。

 領収書は、茶封筒に入っていた。表には領収書の見本が貼り付けてある。このとおりに書いてくださいということだ。

 その下には注意書きがあった。

「領収書が複数枚入っている場合は、それらを重ねて書いたり、提出するときにクリップでとめたりしないこと」

 意味を解説しよう。領収書を重ねて書くと、筆圧で跡が下の領収書に残り、何枚もまとめて書いたことがバレる。また、クリップの痕跡が残っていると、まとめておいた領収書だとバレる。だからそんなことはしないでね、ということだ。

 この周到な工作に、正直、私は驚かされた。それまで警察署で、私は、領収書に鉛筆で下書きし、それを各課員に書かせながら、

「ボールペンのインクが乾かないうちに下書きを消しゴムで消すな! インクのこすれた跡が残っちゃうじゃないか!」

 程度の注意しかしてこなかったからだ。

 さらに、捜査費に対する1つの部署全体の対応も、警察署と本部の違いを見た。警備第1課の部屋で、私はこんな場面を目撃したのだ。係長(警部)が、偽造領収書を書いている部下に、こう声をかけている。

「おまえたちも大変だが、(偽造領収書作りを)頼みに来る捜査費担当はもっと大変だし、つらいんだ。そこをわかってやれ」

「裏ガネで、もっと飲ませろ」などとゴネる、警察署の警部とはまるで違う。こうでなければ本部で係長はできないのだ。

 警察署とは、捜査費の金額も、偽造領収書の数もケタが違う本部が持っている、偽造のテクニックと課員への教育のノウハウ。これにより警視庁では、年間40億円の捜査費を、安全に裏ガネに回せるのだ。当時、私は、この緻密な犯罪に、素直に感動していた。

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