警察庁記者クラブ事件(4)
被保全権利
第1回裁判官面接(2005年7月12日)で、青木晋裁判官は「被保全権利についても検討してください」と言った。「被保全権利」というのは、仮処分命令が発せられることにより守られる債権者(舩川輝樹『週刊現代』副編集長と筆者)の権利である。
「また妙なことを言うなあ」と筆者は思った。舩川副編集長と筆者は、日本国憲法第21条で保障された「取材・報道の自由」という権利に基づき、仮処分命令を申し立てているはずだ。
しかし、青木裁判官や佃克彦弁護士(債権者代理人)と話していて、だんだん事情が飲み込めてきた。日本の裁判所では、「取材・報道の自由」がそれほど重要な権利と認められていないのである。
「報道の自由」は日本国憲法第21条で保障されるが、「取材の自由」は、「同条の精神に照らし、十分尊重」されるだけで、「権利」と解釈していいのかすら疑わしいし、仮にそう解釈できても、いちだん低いものと位置づけられる。上記判示から35年以上が経つ現在でも、下級裁から最高裁までが、「取材の自由」といえば、「憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値いする」と決定や判決で引用しつづけている。
報道機関が「取材」なしで「報道」することなどありえない。だから、「取材の自由」がきちんと「権利」として確立されていなければ、「報道の自由」だけが「権利」として存在することもありえない。前者が「十分尊重」ならば、後者も「十分尊重」なのである。
現下、裁判所が無知だからか、報道機関が無気力だからか、国民が無関心だからか、「取材・報道の自由」は意外と脆弱な権利でしかない。青木裁判官からすれば、「最高裁判例(上記判示)もあることだし、『取材・報道の自由』をそのまま被保全権利とは認めがたい」と直感したのかもしれない。
裁判官面接直後、ハンス・ヴァン・デル・ルフト氏(『NRC HANDELSBLAD』〈オランダの新聞〉特派員)と会った。ハンス氏は、2002年7月から2003年6月まで、「社団法人日本外国特派員協会」(FCCJ)会長を務め、記者会見などから海外メディアも排除する役所および記者クラブと闘ってきた。
筆者がハンス氏に、「青木裁判官は被保全権利にこだわっていました」と話すと、同氏は欧米人らしいオーバーな驚きのしぐさをまじえながら、こう提案した。
「今度、その裁判官にきいてください。『朝日新聞やNHKはどういう権利があり、警察庁長官の記者会見に出席していますか』と」
言われてみれば、そのとおりである。朝日新聞やNHKは、「取材の自由」という権利があるからこそ、警察庁長官の記者会見へ出席しているはずだ。すなわち、舩川副編集長や筆者にも同様の権利が認められてしかるべきである。
「それはいい考えです」
筆者は東洋人らしくあまり表情と口調を変えずに言った。
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