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2006年8月29日 (火)

身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ(番外編)
証人対決Ⅲ

 神奈川県警高速道路交通警察隊長・森藤秀之(もりとう・ひでゆき)警視の「証言拒否」は、完全に裏目に出た。

 鈴木健弁護士は、顔だけはにこやかに、質問を続ける。

「私がお聞きしたのは、今お示しした警視庁の書類に、協力者情報や捜査情報があるのかということですよ。一般的な質問ですから、答えてください」

 石像のようにカチカチになってしまった森藤氏に、裁判長も「これは答えられるでしょう」と苦笑いして証言を促す。

 ついに森藤氏は観念した。

「そのような情報はありません」

 この証言は、「神奈川県警でも、捜査報償費の現金出納簿には、協力者の個人情報や捜査情報はありません」と言っているのと同じことだ。 

 原告側の大量加点となる、痛快な場面だった。

 ほかにも森藤氏は、

「捜査報償費は、緊急に予算を執行しなければならない場合の特例として、現金をプールしておくことが認められている」

 と証言しながら、鈴木弁護士の

「突然事件が起こって、手持ちの現金が足りなくなったらどうするのか?」

 という質問に、

「捜査報償費を使う予定だった事件の金を、新しい事件に回す」

 と答え、

「それでは、金を使う予定だった元々の事件は、まったく緊急性がなかったということですね」

 と切り返されるなど、証言の矛盾を容赦なく追及された。

 また、返答に窮するたびに「証言を控えさせていただきます」と連発し、ときには、県警側の弁護士からも「それは答えて結構です」と言われる始末で、傍聴席は、何度も失笑に包まれた。

 証人対決終了後、打ち上げの席で「警察見張番」のメンバーに、

「証人の差が出ましたね」

 と言われ、私はこう答えた。

「それはそうですよ。私は、ただ、自分の取材を含めた実体験だけを証言しましたが、森藤氏は、組織の意向に沿ったシナリオしか証言しかできない。その差です」

 事実、証人尋問に限れば、原告側の圧勝と言えるだろう。証言内容もさることながら、私には、弁護士の意気込みにも大きな差が見受けられた。

 県警側の弁護士は、今回開示請求された書類を、事前に黒塗り無しで見ているのだろうか。見ていれば、非開示とする理由がないことはわかるだろうし、見ていないなら、自分たちも信用されていないと感じるだろう。どちらにしても、面白くない立場だ。

 彼らは、バリバリの市民オンブズマンである鈴木弁護士とは、明らかにテンションが違った。書類の名称や性格、会計手続きなどがわからず、ときには資料を探したりめくったり、ときには3人で鳩首協議と、尋問はたびたび中断した。

 次回の口頭弁論は、9月20日の予定で、証人尋問の評価も踏まえた最終準備書面が提出される。判決は年末か年明けと思われる。

 今回の訴訟は「公金返還請求」ではなく、あくまでも「情報公開請求」だ。したがって、原告側は「捜査報償費が裏ガネになっている」ということを厳格に立証する必要はない。「県警が言う非開示理由はウソだ」ということだけで足りる。

 裁判所も、捜査報償費の支出書類を開示することのメリットとデメリットを比較考量するだけでよい。

 メリットは、言うまでもなく「捜査報償費が適正に使用されているかどうかを検証できる」ことだ。デメリットは、県警が言う「捜査協力者の個人情報や捜査情報が明らかになってしまう」ということになる。

 デメリットを細かく考えてみると、少なくとも現金出納簿には、県警が言うような情報がないことは、証人尋問で明らかになった。

 また、協力者に報復するおそれがある「暴走族」や「暴力団」の存在自体が抽象的で、県警が誇張している。

 つまり、神奈川県警においても、他県と同様、捜査報償費の支出書類を非開示とすることで守るべき「捜査協力者」や「捜査情報」などが、実は存在しないという重大な疑惑がある。

 それでも神奈川県警が、「捜査報償費は適正に執行している」と言うのならば、堂々と支出書類を開示し、検証を受けるべきではないのか。

 今回、警察の裏ガネ関連訴訟で、全国でも珍しい証人対決が実現した。横浜地裁が、情報公開制度の意義に沿った、常識的判断を下すことに期待したい。

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