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証人対決Ⅲ »

2006年8月28日 (月)

身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ(番外編)
証人対決Ⅱ

 被告側の証人である、神奈川県警高速道路交通警察隊長・森藤秀之(もりとう・ひでゆき)警視は、2003年当時、同県警交通指導課の課長代理をしていた。今回開示が求められている、交通指導課の捜査報償費の支出書類を、直接、記入・管理していた人物ということになる。

 私の見るところ、森藤氏は、所属長にありがちな、やや尊大な振る舞いがまったくなく、実直そのものの人物だった。県警は、その点を重視して、氏を証人に選んだと思われた。

 しかし、その実直さが、後の反対尋問では、マイナスに働くこととなる。

 森藤氏に対する県警側の主尋問では、捜査報償費の支出書類を開示できない理由について、2つの点に力が注がれた。

  1つ目は、交通事件は、暴走族が絡むことが多く、さらに、その背後に暴力団の存在がある場合も少なくないということだった。捜査協力者の氏名等が公開されると、善意の協力者が、そのような者たちの報復を受ける恐れがあるから、協力者の個人情報が含まれている捜査報償費の支出書類は、開示できないという理屈だ。

 2つ目は、捜査報償費の支出書類は、捜査活動の一端を表すものであり、公開されると、捜査の進捗(しんちょく)状況などが明らかになってしまうということだ。この点は、県警の準備書面でも、細かく述べられている。

「捜査報償費の個別の執行状況に関する情報は、事件ごとに時系列で捉えれば、捜査体制、捜査方針、捜査手法、捜査の進展状況といった各種捜査情報を反映しているから、公開すれば、被疑者の逃亡や、罪障隠滅等のおそれがある」(抜粋)

 森藤氏は、主尋問では、この2点について、当然のことながら、よどみなく答えた。

 さて、お待ちかねの反対尋問である。

 まず、県警が言う1つ目の理屈については、反対尋問では特に追及されなかった。これは、この理屈が針小棒大なのが明らかだったからだ。

 交通指導(捜査)課が扱う事件の大半は、規模の大小はあるにしても、「違反」「事故」がらみのものである。罪名も「道路交通法違反」「業務上過失致(死)傷」「危険運転致(死)傷」などで、事件の背景は、他の刑事事件と比べ、総じて単純である。

「暴走族」や「暴力団」が絡む事件が皆無とは言わないが、県警は、「協力者が報復される」という点を強調したいがために、これらの名前を持ち出したに過ぎない。

 2つ目の理屈については、鈴木健弁護士の追及で、森藤氏は、その実直さが仇となって、まさにボロボロになってしまった。

 この理屈への反証こそ、私と鈴木弁護士の事前打ち合わせで、最も時間を割いて練ったものだった。

 使ったのは、1999年の『フライデー』(講談社)の記事である。警視庁銃器対策課から流出した、捜査費の支出書類の写真が掲載されているものだ。

 鈴木弁護士は、捜査費の現金出納簿が掲載されている部分を森藤氏に示して、こう質問した。

「これは警視庁で流出したものですが、あなたがつけていた現金出納簿の書き方と同じですか?」

 森藤氏は、危険領域に踏み込んだことを察知したのだろう、体を硬直させ、言葉を詰まらせ、最後に用心深く答えた。

「だいたい同じです」

 鈴木弁護士は、この言葉を待っていた。ここぞとばかりにたたみかける。

「この、警視庁の現金出納簿に、捜査協力者の個人情報はありますか? 捜査の進捗状況がわかる情報はありますか?」

 森藤氏は返答に窮した。

 示された現金出納簿は、摘要欄に「銃刀法違反事件 ○○警部補渡し」と書かれており、あとは日付、支出金額、残額が記載されているだけだ。同じような記述が、1行1件、1ページ分続く。謝礼を支払った協力者の氏名があるわけでもなく、事件を具体的に特定する情報もない。

 すでに、森藤氏は、「自分もこれとほぼ同じように現金出納簿をつけていた」と証言してしまっている。質問への答えとして、示された書類には協力者情報や捜査情報が「ある」と答えれば明らかにウソになるし、「ない」と答えれば、県警が苦労して構築した、前述の2つ目の理屈が崩壊してしまう。

 森藤氏は、このピンチに、TPOをわきまえず、伝家の宝刀を抜いてしまった。

「捜査に支障があるので、証言は控えさせていただきます」

 その瞬間、県警側の3名の弁護士は、みな下を向いた。

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