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2007年6月30日 (土)

武富士の「恫喝・疲弊訴訟」を手助けする東京地裁(1)

 2007年6月26日、東京地方裁判所民事第45部(白石哲裁判長、吉村美夏子裁判官、佐野文規裁判官)で、筆者が消費者金融大手・武富士(東京都新宿区)と武井保雄前同社会長を相手どり、損害賠償2億2000万円と謝罪広告を請求していた訴訟の判決が言い渡された。なお、武井前会長は2006年8月10日に病死しているため、遺族が訴訟を引き継いでいる(既報〈武井保雄前武富士会長死去でも残る名誉毀損訴訟〉参照)。

 まず、この訴訟が提起される経緯をふり返っておこう。

 2003年5月、筆者は『週刊プレイボーイ』(集英社)で、警察と武富士との癒着を追及する連載を開始した。警察から武富士へ犯歴などの個人情報が提供され、その見返りとして、武富士から警察へ個人信用情報と大量のビール券が提供されていた。

『週刊プレイボーイ』の報道を受け、5月21日、参議院個人情報の保護に関する特別委員会で、集中審議が行われた。谷垣禎一国家公安委員長(当時)が「今、調査、捜査をしているところで、仮に(警察官の)非違(違法)があれば、厳正に対処しなければならない」、小泉純一郎首相(同)が「(警察と武富士との癒着についての調査、捜査の)結果につきましては、きちんと(国会へ)報告すべきだと思っている」と答弁した。

 7月18日、警視庁は、武富士へ個人情報や捜査情報を提供し、同社から個人信用情報やビール券を受け取っていたとして、武田三郎警視正(警務部付=当時・以下同)と久保田利文警視(刑事部捜査第1課課長代理)を警視総監訓戒(武田警視正は辞職)、関根正宏巡査部長(赤羽署警備課)を戒告とするなど、9名を処分した。

 ところが、武富士は「本件記事は、事実無根も甚だしい」と主張し、集英社と田中知二『週刊プレイボーイ』編集長(当時)、筆者へ損害賠償2億円と謝罪広告を請求する訴訟を東京地裁に提起していた。さらに、同社ホームページで筆者を、「虚偽の情報であることを知りながら、これを悪用して報道した」「(記事は)当社の信用を傷つけることを唯一の目的とする風説の流布」「ブラックジャーナリスト」などと再三再四、誹謗中傷した。

 山岡俊介氏(ジャーナリスト)は筆者の友人であり、以前から武富士を追及していた。『週刊プレイボーイ』連載も、山岡氏が協力してくれたからこそ実現した。2000年11月、武富士は山岡氏を名誉毀損で提訴する一方、探偵事務所へ依頼し、自宅電話を盗聴していた。それが山岡氏自身の取材で明らかとなり、2003年12月2日、武井前会長は電気通信事業法違反(盗聴)容疑で警視庁に逮捕された。

 一転、武富士は筆者に対し、和解を申し入れてきた。自分たちが名誉毀損だと訴えておきながら、逆に和解金を支払うというのである。筆者が拒否すると、2004年2月6日、武富士は訴訟を「放棄」(原告が自らの提訴に理由がなかったと認めること。原告全面敗訴の判決が確定したのと同一の効力を持つ)し、3月16日、武井前会長が「武富士のホームページ上において、(筆者の)名誉を毀損した行為に対する、(武井前会長が)相当と考える損害賠償金1000万円」(供託通知書より)を東京法務局へ供託した。

 武富士と武井前会長は、名誉毀損訴訟という体裁をとりつつ、筆者や集英社を恫喝し、疲弊させて、『週刊プレイボーイ』連載を中止へ追い込もうとしていた。提訴されれば、精神的、金銭的、時間的負担が重くのしかかり、取材や執筆、掲載を続けられないケースもままある。

 ましてや原告が損害賠償2億円を請求すると、恫喝効果が極めて高いうえ、被告は弁護士報酬2000万円(訴額2億円×10%=標準額)も工面させられる。弁護士報酬は、訴訟の勝ち負けにかかわらず、原告と被告が各々負担するので、訴額が高額であればあるほど、原告が支払えても、被告が支払えない(弁護士を依頼できない)事態が発生する。幸い、筆者は、堀敏明弁護士がはるかに低額で受任してくれたため、訴訟を受けて立つことが可能だった。

 常々、武井前会長は「報道が事実かどうかは関係ない。高額名誉毀損訴訟を連発していれば、いずれ批判する者はいなくなる」と豪語していたという。実際、提訴を恐れるジャーナリストやメディアは、最初から武富士を取材対象としない。

 武富士が先駆者とされる「恫喝・疲弊訴訟」は、近年、問題企業が軒並み模倣している。日本国憲法第21条が保障する「表現の自由」が危機にさらされているわけだが、そのお先棒を担ぐのが裁判所というのがなんとも嘆かわしい。

 ここで考えてみてほしい。名誉毀損を行っていない者に対し、「2億円を支払え」と要求することは、武富士から1円も借りていない者に対し、「2億円を支払え」と要求することと同じである。まさしく恐喝未遂に該当する行為だ。

 もし、証拠や犯意などから判断して、あるいは、そもそも捜査機関と武富士との癒着があり、刑事上のペナルティを科すことが難しくても、民事上のペナルティは科すことができる。刑事上も民事上も、武富士の恐喝未遂がやり得となると、著しく正義に反する。

 不正乗車が発覚すれば、正規運賃の3倍を請求される。無断駐車1回で数千円から数万円を請求されることもある。社会通念上、いわゆる「3倍返し」は認められている。

 2006年5月25日、筆者は武富士と武井前会長に対し、損害賠償2億2000万円(そのうち2000万円は弁護士報酬)と謝罪広告を請求する訴訟を東京地裁へ提起した。「3倍返し」の損害賠償6億6000万円(そのうち6000万円は弁護士報酬)を請求すると、東京地裁へ支払う手数料が200万円。あまりにも高額なので、訴状で「6億円を損害賠償として請求できる権利がある」「本件訴えにおいてそのうちの金2億円を請求するものである」とした。これでも手数料が68万円かかった。とことん、日本の司法制度は金持ちが有利だ。

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